中村モーターサイクル商会 仕事の話

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説明する力

先日あった話だ。「点検に出して7万かかりますか」と聞かれた。ディーラーに点検に出したら7万も支払ったので驚いたのだという。詳しく内容を聞くと、どうやらエンジンの異音が気になることを伝えたら、無断でカムシャフトを交換されたらしい。カムシャフトがなんであるかも良く理解されていないようであった。


カムシャフト交換すれば、そのくらいの金額はしますよと答えたが、本人は納得がいっていない様子だった。点検だけなら当然7万円はしないが、点検して必要な整備をしたのなら仕方のない額面だと思う。そもそも他店の仕事に口をだすつもりはない。しかし、業界全体で考えていかなくてはならない問題だと思う。


この問題の本質は、金額が7万だったことではなく、ディーラーの説明不足だ。まず、異音の原因を調べたところカムシャフトにカジリがあり、このままでは異音だけでなくエンジン出力が下がる、最終的にはエンジンが壊れ修理金額が高額になる、あるいは修理不能に陥るといった警告、つぎに、例えばオイル交換を怠り、量の点検もしないなど管理が悪かった(かどうかは不明だが、可能性として)、オイルポンプ吐出量が低くいためアイドリングで放置をするとオイルが回らなくなる、したがってエンジンの上部が潤滑不足になるといった、いわば車種特有の症状である(かもしれない)など、なぜカジったのかの理由の説明、それから、修理するのに部品代と工賃で概ねこのくらいの費用がかかるということを説明するべきだった。


修理するしないはお客様の自由である。だから、判断する材料をどれだけ提供できるかが大切である。本人の意向をヒアリングして、なるべくそれに近い、本人にとって最も良い選択肢を論理的に提案できればさらに良い。


我々プロは、お客様にわかりやすく説明する必要がある。そのあたりがお座なりになっていると、このようなトラブルが発生する。今回のケースではクレームもなく店側は気がつくことはないが、顧客に満足してもらえてない時点で失敗だと思う。


このような案件は、お客様は無知だが、高度な知性の持ち主だと思えば対応のしようがあると私は考える。
ユーザーがバイクのメカニズムに無知なのは仕方がない。バイクに興味がなくても必要だから乗っている、乗る以外興味もないという人は多い。そもそもメカニズムを深く知る義務はユーザーにはない。
例え話を用いてわかりやすく説明すれば、修理するバイクの現在の状態と問題点を理解して貰えると思う。理解してもらえるよう最大限の努力をするのは、我々整備士側の義務だ。修理内容に納得してもらえないのはお客様の理解力がないのではなく、プロである私の説明が下手なだけだと反省しなくてはならない。ユーザーには、こちらの説明に落ち度がなければ理解できるだけの知性があるからだ。


だから、整備士には説明する力が必要だ。今回のように説明不足で不信感をもたれるケースは多い。顧客満足のためには安心感と納得が欠かせない。


持てる知識や経験を駆使して、お客様の悩みを解決できる提案ができるようになれば、専門性の優位を認められ、さらに信頼されると思う。


また、我々は「逃げ」と受け取られようと、トラブルを未然に防ぐためにも、予め伝えるべきことは伝え、お客様の意思を確認しなくてはならない。理由は説明するまでもないが、お客様の希望通りに物事が進むわけではないからだ。メリットだけではなく、デメリットや「もしもの場合」に備えて最悪のケースを示すことも必要である。


たとえば、オイルの量が少ない、汚れが酷い、いつ交換したかも覚えていない。このような、オイル交換をせずに放置している車両が入庫したときは強くオイル交換を薦める。このままでは焼き付きますよと脅かす。もちろん、こちらの利益のために営業でアピールしているわけではない。勝手に交換することもしない。
このまま乗り続けることの危険性やデメリット、オイル交換した場合の費用を丁寧に説明する。それでも同意を得られない場合は、ご予算やご都合もあるだろうし無理強いしても仕方がないと判断する。なぜなら、理解してもらうのと同意を得ることは根本的に違うことだからだ。

 

医療機関では、手術の前には必ず詳細な説明がある。同意書にもサインさせる。
我々整備士も、バイクの医者だと思えば修理に取り組む意識も変化するのではないだろうか。