中村モーターサイクル商会 仕事の話

仕事について、考えていることを発信していています

紹介制度の導入まで考えた

バイク屋は好きでないとやっていられない。
手間を考えると割に合っていないからだ。


それでも続けようと思うのは、当店を選んでくれたお客様がいるからだ。
ご自宅から当店に来るまでの道中に、おそらく何件もあるであろう他のバイク屋を素通りしてわざわざ当店に来てくれる。なんと有り難いことだろうか。


商売を10年近く続けると、常連のお客様のお陰で成り立っているのだなと、思い知らされる。


それを踏まえて、一見さんと常連さんとの関わりかたについて、つらつらと述べる。


まず、一見のお客様に多いのが、金額の問いあわせだ。
実にシビアなお客様もいらっしゃる。
見積書を要求されるお客様がいるが、もし相見積もりならお断りしたい。見積りにも手間がかかるし、値段の安さがすべてなら、うちではお手伝いできない。


特殊な作業において、絶対に金額を確定しないと依頼したくないのであれば、依頼をしてくれなくても構わない。後になって話が違うと騒がれては困るのだ。
それよりも、なぜそうしたいのかという切実な思いや覚悟を聞かせて欲しい。


だいたいどのくらいのお金が必要かという問いあわせについては、支払い金額を大まかに把握しておきたいだけだと思うので、なるべくお伝えしようと思う。
入庫後の見積りで実際の金額と乖離するようであれば、本作業に取り組む前に確認の連絡をすれば済む話である。
それで納得できない方の仕事は、はじめからお受けしないだけのことだ。


これ以上値引きできないという見積りこそが誠意ある見積りだ。商売として成り立つ利益があってこそ、お互い気持ちよく取引ができる。
あとで叩かれることを見越して高めの見積りをする相手とは、信頼関係をもって長く付き合える間柄にはなり得ない。だからこちらもそのような見積りはしない。


いっぽう、当店と信頼関係を確立したお客様は、この辺りがスムーズなので余計な労力がかからずに済む。


また、こちらの都合を考えて、作業の予約を入れてもらえるので予定が組みやすい。
飲み物など差し入れていただいて、店での会話を楽しみにしてくれていたり、長くお付き合いしたい人々ばかりだ。


持ち込み作業については、きっちりと工賃をいただけるのであれば、今後も継続しようと思っている。購入金額に大きな差があれば、安い方を選びたくなるのが人情だ。
しかし、喜んで当店から部品を購入してくれるお客様が増えてくれたら嬉しく思う。


とくに、こちらが責任を持てないヤフオク中古パーツや、取り扱い経験のないカスタムパーツなどは持ち込みをお願いしている。
とにかく、責任を持てないパーツは扱いたくない。それも理解していただきたい。


ごく一部の常連さんにもいるが、故障の原因だけ聞きにきて、部品もよそで買ってきて自分で直すのはモラルに反していると思う。
本来なら診断料をもらう案件である。
本音を言えば、なにも教えたくはないし、その時間を優良客のために使いたい。


京都の花街や、一見さんお断りの料亭のような、紹介制を導入するのも一考した。
仕事を受けるのは、常連客からの紹介客のみというシステムである。


では、なぜ紹介制を検討したのかというと、既に受けた仕事を完遂しないまま、新規の仕事を受けているので、いつまでたっても手のかかる作業が進まないからである。


それでも、新規のお客様を大切にしているのは、まだ見ぬお客様と繋がりたいとの想いが断ち切れないからである。
元は誰もが、一本の電話の問い合わせからお付き合いが始まっている、誰もが初めは一見さんだった。そう思うと、どうしても紹介制に踏み切れないのだ。


とはいえ、そうも言ってはいられない。すでに現状を変えなくてはならないところまで追い込まれている。
かなりお待たせしてしまっている作業が山積みだからだ。


そこで、紹介制度はいったん棚上げして、まずは既にお受けしている仕事と、常連様、当店のファンなど信頼関係を結べているお客様の仕事を重視する。

今後は当店でなくてもできる仕事はお断りしようと思う。


金額の安さだけで当店を選んでいるお客様は、もっと安いところを探していただいて、紹介客以外はどの店でも診れるスクーターなどは、お受けしない。
一見さんでも他店で断られた、店が無くなってしまったなど、本当にお困りの方は納期をいただけるならお受けしようと思う。


また、修理の問い合わせのみなど工賃を支払っていただけないお客様の対応もしていたが、それを辞めようと思う。
なにしろ、時間のロスである。料金を支払ってくれているお客様の仕事に支障をきたしては失礼だし申し訳ないからだ。


常連のお客様には、パーツ代や保険代の立て替え、代車や配達、お困りごとの相談など、可能なご要望には私の判断一つで融通対応している。そこが大手との違いだと思う。


ここまで読まれたかたは、私がさぞかし天狗になっていると思われるのだろうが、真意は全く逆である。信頼関係を築いているお客様を大切にしたい。ただ、その思いだけである。


そして、お客様が料金を踏み倒したり、不義理なことをしないだろうという信頼が前提にあるからこそ、こちらも頑張れるのだ。


良い長いお付き合いをしたいからこそ、あえて一見さんをお断りすることも必要なのである。


当店のサービスは、全てのお客様に提供するには限界がある。
当店との一線を踏み越えず、サービスに満足して対価を支払っていただけるお客様を大切にしたい。


そのように思った次第である。