中村モーターサイクル商会 仕事の話

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自制心と美学について考える(2)

 合理的な方法で交渉するとしたら、人間関係はどうなってしまうのか。

 

合理的取引を論ずるなら、ゲーム理論が参考になります。ゲームというと遊びのようですが、現代社会の問題にも当てはめることができるため、まじめに研究されているのです。

 

ゲーム理論で特に有名なのが、「囚人のジレンマ」です。すでにご存じの方も多いと思います。

奥の深い研究です。私ごときの理解では説明できる代物ではありませんが、考え方の要点を書きます。

ゲームの概要をウィキペディアから引用します。

 

 

共同で犯罪を行ったと思われる2人の囚人ABを自白させるため、検事はその2人の囚人ABに次のような司法取引をもちかけた[6]

本来ならお前たちは懲役5年なんだが、もし2人とも黙秘したら、証拠不十分として減刑し、2人とも懲役2年だ。

もし片方だけが自白したら、そいつはその場で釈放してやろう(つまり懲役0年)。この場合黙秘してた方は懲役10年だ。

ただし、2人とも自白したら、判決どおり2人とも懲役5年だ。

 

このとき、「2人の囚人ABはそれぞれ黙秘すべきかそれとも自白すべきか」というのが問題である。なお2人の囚人ABは別室に隔離されており、相談することはできない状況に置かれているものとする。

 引用終わり

 

お互いに協調すればメリットがあるにも関わらず、裏切ることでメリットがある場合には協調しなくなる、というジレンマですね。

 

裏切ることで自分だけが得をしたいのもあるし、自分だけが損をして相手側が大きく利があるのを避けたい。やられっぱなしはバカバカしい。お互いが利益を追求すると、お互い裏切るのが合理的戦略になります。

これは一回限り、あるいはゲームの回数をお互いが知っているときの話です。

 

無限に続くのは実際的ではないので、いつ終わるのかお互い判らないが、いつか終わるゲームだとすると、どうでしょうか。

どちらも利得を最大限に追求すると、相手が裏切らないかぎりは協調する戦略になる可能性が生まれるとされています。

 

囚人のジレンマゲームでは、有限無期限が前提なら、トリガー戦略やしっぺ返し戦略が有効とされています。

トリガー戦略は、協調するが、一度裏切られたら裏切り続ける戦略です。しっぺ返し戦略は、初回は協調しその後は前回の相手の手をやりかえす戦略です。なぜ、そうなるのかは説明が面倒なので、興味ある方はご自身で調べてください。

 

ここまではゲーム理論の話です。この先は私の意見です。

 

ゲーム理論には、チェスや将棋の定跡ように、想定された局面において有効な戦略があります。

有限無期限で囚人のジレンマゲームをするなら、最後のゲームで一発裏切れれば、トータルで相手に勝つ可能性が高いのです。

オークションで喩えると、こうなります。

まずは信用を高めるために、少額の取引を大量にします。これらはすべて協調戦略をとります。つまり、確実に支払い、きちんとした品物を渡します。

評価が高まったら、高額のオークションを開催し、詐欺的手法で大金を巻き上げます。つまり裏切り戦略です。ですが、裏切り戦略は一回限りの狙い撃ちとなります。社会的信用を失うか、後ろに手が回ってしまうからです。

 

ゲーム理論でも、トリガーを引くか、しっぺ返しを食らうので、その後の利得は最小になります。

だから、最後のゲームがいつなのか判らない以上は、お互い損をし続けるより、ほどほどで手を打っておいたほうが得です。裏切りを選択しないほうが合理的です。

ですが、この選択には前提があって、今の利得は薄くても将来的に儲かればいい。このように時間を割り引かずに考えることができれば、の話です。

なので、時間を割り引かず合理的に考えると、基本は協調を選択する、しっぺ返し戦略が正しいといえます。

 

・今日もらえる100万円か、10年後もらえる200万円か

ところが人間には、現在より未来を割り引いて考える心理があります。時間が経過するにしたがい、うれしさが薄れていくのです。

だから、未来より現在の利得を重視します。報酬に基づく人間の行動には、時間が関係しているのです。

今日貰える100万円のほうが、うれしいものです。10年後に200万円くれるといっても、その頃が想像できない。私自身も、お金に困っていたり、欲しいものがあれば、迷わず今の100万円を選ぶと思います。

本当の意味で損得を考えれば、10年後200万円を受け取ったほうが得な話なので、そちらを選ぶ人もいるとは思います。しかしお金を受け取るまで10年間待たなくてはならないのです。

 面倒くさいことは後回しにして、今を生きる。それも一つの考え方です。

「そんな先のことより、今が楽しければいいぜ」。小学生のころ、夏休みの宿題を後回しにして、8月30日ごろに焦る。経験がある人も多いのではないでしょうか。

 

協調戦略は、お互いに利があります。いつか終わるのは間違いないが、いつ終わるかわからない取引を繰り返すなら、協調を選び、時間割引を自制すれば、最も利得が多くなる可能性があります。

だから、協調し、相手が裏切を選択した場合のみ裏切り返す。

相手が裏切らない限りは、目先の利益に惑わされずに協調を続ける。

このような結論に達するのではないでしょうか。

 

 目先の利得に固執するか、将来、未来への投資と考えて自制するか。

このように、合理的取引を考えてみても、やはり「自制」というキーワードが現れてきます。

 

精神論や人情論を一切排除して検討しても、人間関係において、自制するのは「得をする可能性がある」といえるでしょう。

とはいえ、まだ検討の余地はあります。次回は、もう一つ別の角度から「自制の美学」についてお話したいと思います。