バイクの乗り方に自信のない人へ伝えたい 公道で生きのびる方法論(1)
バイク修理業をしていますと、ライディングテクニックについて質問を受けることが割と多いです。修理が本業ですが、乗り方のアドバイスをするのも仕事のうちなのです。
最初にお断りしておきますが、速く走るための方法は、残念ながらお伝えすることはできません。なぜなら、私にはライディングセンスもテクニックもないからです。しかし、公道で生きのびる方法を語ることはできます。バイクに乗るだけなら、センスやテクニックは程々あれば良いのです。
第一弾として、コーナリングの悩みにお答えします。
ツーリングで峠道に入るたびに、不安と緊張を強いられて楽しめない人のヒントになれば幸いです。
・なるべくバイクを寝かさないのがコツ
ツーリングに行くと、休憩中にタイヤのどこまで使っているか、という話題になります。なんとなく、端っこまで使えていると上手い、真ん中しか使えていないと下手のような気がしませんか。
ですが、公道でタイヤの端っこまで使っている人は上手ではないのです。試しに上手な人のタイヤを見ればわかります。ほとんど端っこを使っていないはずです。
「峠道をバイクで走るならバンク角が深いほうが上手い」
この思い込みがある人は、バイクで公道を走る楽しさから遠ざかっています。
公道では、なるべくバイクを立てて曲がるように意識しましょう。バンク角が増えれば、それだけ転倒の可能性が高くなります。転ぶと痛いし、ケガをすることもあります。バイクもダメージを負い、修理代がかかります。
サーキットと公道では、どちらも危険要素を排除し、安全マージンを高める走りが求められますが、一点明確な違いがあります。
レースやサーキット走行では、すべてのマシンが「レース結果」や、「ベストタイム向上」を目的としています。
いっぽうで、公道を走るすべての車両は、同じ目的で走っているわけではありません。ゆっくり走っている車もいれば、危険運転車もいます。
フルバンク中になにが起こるか予想がつかないのが公道です。
また、路面のμが安定して高いサーキットと違い、公道は路面のμが不安定です。しかもブラインドコーナーの先にはなにが待ち受けているかわかりません。
バイクが立っていれば、突然現れたギャップを拾っても振られに対処できる可能性が高いのですが、バイクが寝ていると転倒する可能性が高まります。
ジムカーナ特有の深いバンクは、特殊な環境におけるテクニックです。
低速で素早く向き変えするためにはそうせざるを得ないからであって、形だけ真似してフルバンクするのは危険です(マシンもジムカーナ用にセットアップされています)
速くて上手な人は、公道でフルバンクするのがリスキーな行為だと知っています。
峠道でビバンダム君を削りとって自慢している場合ではないのです。むしろ、削りとれないよう守ってあげるべきでしょう。
また、タイヤを温める目的で、スラロームのようにグリグリとハンドルをこじっている人を見かけます。転んだときのダメージが大きいクルーザーのような重い車種だと、見ているこちらが不安になります。
・他のバイクに気を取られないようにしましょう
「先行するバイクが行けたから、自分も行ける」。そうとは限りません。先行車のラインを見て勉強するのはいいのですが、同じラインを選ぶと危ない場合があります。
走るラインは自分で判断しましょう。
先行するバイクに惑わされないようにするには、「動く障害物」だと思うとよいです。「モノ」は確かにそこに存在しているが(ぶつからないように存在は認めましょう)、居ないものととらえ、目の前には道が広がっているだけだ、と考えるのです。
目を三角にしてコーナーを攻めていると、周囲の交通に注意が行き届かなくなります。ミラー等で、後方にも気を配ります。追いついたバイクに道を譲るときは、道が広くなってからにしましょう。
・スムーズな荷重移動を意識しましょう
練習するときは、いきなり飛ばさずにゆっくり走りましょう。体が慣れてくれば自然にペースが上がってきます。
コーナーでは、ピッチングを抑えると共に、スピードをなるべく一定に保つようにしましょう。ピッチングとは、簡単に言えばシーソーの動きのことです。バイクの場合は、フロントフォークとリアクッションの沈み込みととらえてください。
音楽でたとえると、テンポは一定のままリズムよく曲がります。フルブルーキング、フルスロットルだと、いかにも攻めている感じがありますが、タイムを測ってみると実はあまり速くありません。怖い思いをして危険なだけです。
ノーズダイブを使ったコーナリングは、慣れてからでも遅くありません。
コーナーが複合する峠道では、一つ一つのコーナリングスピードより、全体で均してスムーズなほうが速くて安全です。一つのコーナーだけが速くてもメリットがありません。
まず大切なのは、オーバースピードでコーナーに進入しないことです。バイクが立っている状態で充分に減速します。当たり前のようですが、ついオーバースピードになりがちなのです。とくに、ブラインドコーナーや、登りで先が見えない直線では進入速度を下げます。
アクセルを戻して減速し、フロントブレーキはガツンと握らないようにすると恐怖心がありません。
コーナリング中にオーバースピードだと判断したら、アクセルはそのままでリアブレーキを引きずるようにかけると安定します。
・交差点を曲がるときはバイクを立てましょう。
交差点は、なにが起こるか予想のつかない公道の中でもデンジャラスゾーンです。
バイクを倒さないようにするには、なるべく立てるしかありません。ゆっくりとハンドルを切って曲がるくらいでいいのです。転ばないのがなによりカッコいいのです。
・峠道を楽に走るためにはライン取りが重要
いかにバンク角が少なく、寝ている時間が少ないラインを見つけられるかが肝です。
鋭角的なラインは、完全停止しない限りあり得ません。なるべく、コーナーを直線的に緩やかに走るのがベストラインになります。速く走るのではなく、安全に走るラインであることに注意してください。
マシン特性、交通状況と、天候や路面状況によってもラインは変化します。その時々のベストをリアルタイムで判断して走るのはゲームをしているのに似ています。いかに攻略するか頭を使いますので、恐ろしいより楽しい気持ちが優ってくるのです。
具体的なライン取りを伝えるのは難しいです。基本はアウトインアウトです。コーナー進入時にはアウト側に車体が来るラインを選びます。
インに寄るのが早すぎると脱出が辛くなります。そのときの状況次第ですが、インに着くのは立ち上がるギリギリまで我慢します。出口が見えたら、インをなめるように立ち上がるラインを選びましょう。
大切なのは、自分自身の理論で組み立てたラインで走ることです。同じコーナリング速度でも、ライン取りは皆微妙に違うのです。
峠道を攻略するのは気合ではありません。センスもそれほど必要ありません。ある程度の経験と理論があればよいのです。
目の前のコーナーをどう攻略するか、その場で考えていては危険です。コーナー攻略法をパターン化すれば、そのつど考えずに判断できます。先ほどゲームと似ていると述べた通りです。自分なりのベストラインを導きだしたら、データとして蓄えましょう。パターンに対応するアクションをあらかじめ決めておけば、脳みそへの負担が少なくなります。
攻略法が思いつかないコーナーは、ゆっくり無難にやり過ごすしかありません。
引くときは引く判断が大切です。メリハリをつけて走るようにすれば、転倒する可能性を下げることができるでしょう。
ある程度のパターンを経験してデータが揃えば、以前より峠道が恐ろしくなくなると思います。
データが豊富になれば、ライン取りが効率的になり、バイクが立っていてアクセルが開いてる時間が長くなります。
その結果、安全マージンが高いまま走りも速くなるのです。